春のお彼岸になると、暖かさに誘われて、境内が賑やかになる。
芽吹きの時季を迎える“春分の日”は「生物をたたえ、自然をいつくしむ日」とされ、日頃の感謝をささげながら、ご先祖さまのお墓参りをするならわしである。
お墓参りの方々の中には、自分のところ以外にも、兄弟・親戚・友人・知人など、あっちもこっちも…と数軒を掛けもちしてお参りする方もいる。いくつものお墓が離れた所にあれば、たとえば横浜~東京~埼玉といった具合に、一日がかりで時間をかけて巡るという。新幹線や電車、車などに乗って遠くからお参りにくる方もいる。
人それぞれではあるが、それでもやはり「身体と時間が許す限りは、必ずお墓参りに行きたい」という声が多い。ご先祖さまを大切にする日本人の心は、今も昔も変わることはない。
ところで、よく「“ついで参り”はいけない」という話をきく。
とくに葬式や法事は「今日は誰々の供養のために集まる」という目的が決まっているので、それにもかかわらず、その場の思いつきで「ついでにこっちも」と付け足しに別のお墓をお参りすることは、失礼になるので控えるべきである。ただし、たとえば少し早目に到着するなど、別に時間をつくっておいてお参りすれば“ついで”とはならない、という。
お彼岸や普段のお参りなどで、はじめから「あっちもこっちも全部お参りするぞ」という心構えであれば、何軒も掛けもちしても、それは「ついで参り」ではないのである。このようなしきたりは、地域や人によって色々な考え方があるようだが、とにかく、軽はずみな気持ちではなく、きちんと真心を込めてお参りしましょう、という誡めであろう。いずれにせよ、「おかげさまで、元気で無事にやっています」という報告をきくことは、ご先祖さまにとって何より嬉しい供養になるはずである。(副住職孝善)